2023年7月13日、FDA(アメリカ食品医薬品局)は専門家の助言を基に、処方箋を必要としない一般用医薬品として、経口避妊薬ピルの販売を承認しました。
まだピルの適切な使用について、疑問が残る状況での承認だったことから、大きな注目を集めています。
Opillとはどんな医薬品なのか
Opill(オーピル)は製薬会社Perrigo(ペリゴ)が製造販売を手掛ける経口避妊薬(ピル)です。
プロゲスチンのみが配合されている避妊薬で、安全性が非常に高い特徴があります。
正しい用法と用量で使用した場合、妊成功率は98%です。
処方箋なしで購入できる一般用医薬品として販売許可が下りており、1ヵ月分を19.99$(日本円で3,000円ほど)で購入できます。
Opillの有効成分
Opillはプロゲスチンという黄体ホルモンを含んでいます。
プロゲスチンには排卵を抑制することで、子宮や子宮頸部において妊娠の確率を下げる働きがあります。
アメリカや日本で流通している避妊用ピルの殆どが、プロゲスチンとエストロゲン(卵胞ホルモン)を両方含む混合型ピルです。
プロゲスチン単独ピルと、プロゲスチンとエストロゲンの混合型ピルには、それぞれ以下のような副作用があります。
- 出血が不定期となる傾向
- 胸に痛みを感じる
- イライラ感
- 気分が沈む
- 精神的に不安定になる
混合型ピルと比べると、プロゲスチン単独ピルへ切り替えることでピル服用時の副作用の軽減が期待できるとされています。
Opillの市販が許可された経緯
米医学会や支援団体は、韓国やギリシャのように、市販ピルを購入できるよう長年訴えてきました。
経口避妊薬を身近なものにするために活動するグループ「避妊アクセスイニシアティブ(Contraceptive Access Initiative:CAI)」の共同創業者Dana Singiser氏は「今回の承認は、我が国にとって、生殖医療の歴史的な一歩となるだろう」と述べています。
医師が語る避妊薬の現状
多くの医師は「避妊薬を求める多くの患者は、適切なタイミングで避妊薬の処方箋を受けることができていない」と語ります。
非営利団体カイザー家族財団(Kaiser Family Foundation:KFF)の2022年統計調査によると、経口避妊薬使用者の1/3は適切なタイミング、適切な用量で避妊薬を飲めていない、というデータが得られました。
「避妊薬が市販されれば、避妊薬の用量の間違いを回避することができるだろう」と医師は言います。
産婦人科医のRaegan McDonald-Mosley氏は「避妊は健康管理の基本であり、避妊が難しくあるべきではない」と語ります。
実際のピル利用者の声
ニューヨーク在住21歳のLola Blackmanさんは以下のように語っています。
「予定が合わず、リフィル処方箋をもらいに行く前に、薬が足りなくなることが時々あります。」
「そんなときは、通販の薬局で購入しています。もし、一般用医薬品として販売されるなら、とてもうれしいです。」
一度発行してもらうと、最大3回まで診察なしで薬を受け取ることができる処方箋。
2022年4月より、日本でも導入されています。
反対意見も多かった
米国カトリック司教会議などの組織は、昨年FDAが集めた専門家に対し、処方箋を必要としないOpillの販売について、強く反対する旨の書面を送りました。
カトリック医師会は承認当日、FDAの決断に対して「深い懸念を抱いている」との声明を発表しています。
中絶反対派グループ代表のKristan Hawkins氏もまた、「市販は危険な判断である」と訴えており、以下のようにも述べています。
「若者が医療従事者の助言なしに経口避妊薬を入手できることは危険であり、ピルの服用により起こりうる副作用について、十分に評価されていない。」
FDAの専門家は以下のように語ります。
「一般用医薬品として扱われるOpillのメリットは、デメリットを上回っていると言える。」
「何十年もの間、処方薬として扱う事で安全性を確立してきた。」
ペリゴ社傘下の製薬会社HRAファーマは、一般用医薬品として承認を得るために、2015年ファイザーからOpillを買い取り、市場から回収しました。
ペリゴ社は「民間保険会社やMedicaid(連邦政府による低所得者層向けの医療費支援制度)に対しても、Opillを保険の対象とするよう働きかけている」と言います。
性と生殖に関する権利を訴えるNational Women‘s Law Center首席弁護士Mara Gandal-Powers氏は、
「連邦法において、Plan Bピルや男性のコンドームのような市販の避妊方法を盛り込んだ医療制度の改正が必要ではないか。」
「避妊を目的としたピルを入手するためには処方箋が必要になるが、処方箋なしでもピルを入手できることを医療制度に義務付けている州は一握りである。」と訴えています。
州政府による医療費補助制度は、一般用医薬品については盛り込んでいません。
CMS(アメリカの厚生省に属する公的医療保障制度)は、FDAが今回承認した、処方箋なしで購入可能な一般用医薬品としての経口避妊薬についてもカバーするような民間保険を現在検討中です。
意図しない妊娠を避けるための選択肢を
「中絶する権利」を支持し、関連する統計データを追跡するガットマッハー研究所の情報によると、アメリカにおける妊娠のほぼ半数が意図しないものである、という結果でした。
意図せず妊娠してしまった女性は、赤ん坊を失うリスクが高く、必要なケアが遅れている、というのが現状です。
こうした現状を打開するためにも、初の一般医薬品としてのOpillがどのように活躍するのか期待されています。
この記事の参考サイト
Opill 公式サイト
FDA Approves First Over-the-Counter Birth-Control Pill:WSJ
Opill (0.075mg Oral Norgestrel Tablet) Information