今までのアルツハイマー型認知症には症状を緩和する薬しかありませんでしたが、2023年と2024年に2つの新薬が登場したことで症状の進行を抑制する事が出来るようになりました。
こちらの記事では「レケンビ」「ケサンラ」2つの新薬について詳しく解説します。
アルツハイマー型認知症の新薬「レケンビ」「ケサンラ」
FDA(アメリカ食品医薬品局)は2023年7月、エーザイ社とバイオジェン・インク共同開発のアルツハイマー病治療薬「レケンビ(レカネマブ)」を承認しました。
また、2024年7月、米イーライリリー社の「ケサンラ(ドナネマブ)」もアルツハイマー病治療の新薬として承認しました。
これまでのアルツハイマー病治療薬は、認知症の進行を防ぐことができず症状を緩和することを目的とした薬剤でした。
今回承認された2つの新薬は、大規模な臨床試験により認知症の進行を抑制する効果があると証明されました。
これら2つの薬剤の効果、仕組みについて詳しく解説します。
アルツハイマー病・認知症の仕組み
アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβと呼ばれる特殊なタンパク質の変性によって発症します。
アミロイドβは健康な人の脳内にも生成されるタンパク質ですが、通常は分解され排出されるようになっています。
なんらかの原因によってアミロイドβが分解排出されず、脳内に蓄積してしまうと、脳細胞の死を招いてしまいます。
脳細胞が死滅することで認知能力の低下に陥り、認知症に至ります。
ケサンラの効果・仕組み
ケサンラは米リリー社が開発した静脈注射により投与される医薬品です。
有効成分ドナネマブにはアミロイドβを除去する働きがあり、アルツハイマー病による認知症の進行を抑制する働きがあります。
1730人以上の早期アルツハイマー型認知症患者を対象に行われた臨床試験で、ケサンラを18ヵ月間投与した結果、プラセボ(成分が入っていない偽薬)と比較して、35%進行を遅らせることに成功したと報告されています。
アルツハイマー病を完治させる働きではなく、進行を遅くする働きであることが重要で進行しきった重度の認知症には適さないとされています。
レケンビの効果・仕組み
レケンビは静脈注射により投与される医薬品です。
有効成分としてレカネマブを含有しています。
ケサンラと同様に、アルツハイマー病の原因であるアミロイドβを除去する働きがあります。
18ヵ月間のプラセボ比較試験の結果、研究ボランティアと比較して、認知症患者の認知機能の低下を27%遅らせた、という結果が得られました。
27%という数字は統計学的に有意な結果ですが、全ての患者にとって、有意義な結果とはいえないかもしれない、というのが医師の意見です。
脳腫脹や脳出血などの副作用のリスクについて、患者と話し合う必要があるだろう、と主張する医師もいます。
アルツハイマー病の新薬はどんな人に提供されるのか
「ケサンラ」と「レケンビ」。
これらの薬剤は、アルツハイマー病の症状が比較的軽度な患者に対して投与することを想定されており、ある程度進行している患者に対しては、薬の効果が期待できないと考えられています。
脳内に過剰なアミロイドβの蓄積が検査で認められる場合に処方されますが、認知症の中には、脳血管の損傷が原因として起こる場合など、アミロイドの蓄積に関わらないこともあり、判断が難しいようです。
今後、更なるアルツハイマー病の新薬が登場する可能性はあるか
医薬品メーカーや研究者たちは、数十もの医薬品となる可能性のある化合物について、研究を重ねています。
国際学術誌Alzheimer‘s & Dementia: Translational Research and Clinical Interventionsの報告によると、2022年初期の時点で、143種類の医薬品に関して、アルツハイマー型認知症に対する臨床試験が行われました。
そのうち、31種類が承認前の最終段階である第III相試験まで進んでいます。
ケサンラとレケンビはアルツハイマー病に対し画期的な効果を示す薬として期待されていますが、近年中にこれらを上回る効果を示す薬が登場するかもしれませんね。
この記事の参考サイト
ケサンラ®(ドナネマブ(遺伝子組換え))公式サイト
レケンビ 公式サイト
Alzheimer’s Disease Treatments: What to Know About New and Future Drugs:WSJ
アミロイドβとは