糖尿病治療薬「オゼンピック」の投与により、糖尿病患者の腎臓病リスクを低減させられることが判明しました。
今回の記事では、糖尿病治療薬により合併症のリスクがどのように変化するのか解説します。
オゼンピックが慢性腎臓病の進行を遅らせ、様々なリスクを低減させることが明らかになった
ノボノルディスク社が開発した「オゼンピック」が慢性腎臓病の進行を遅らせ、腎不全、心臓発作や脳卒中のリスクや、死亡リスクを低減させることが明らかとなりました。
今回の研究結果は、2型糖尿病患者を対象とした長期間に渡る臨床試験のデータに基づいています。
今回の研究結果は、糖尿病治療薬や肥満症治療薬に分類される新たな種類の薬剤が患者の健康面にどのようなメリットをもたらすのかを示す更なる証拠であるといえます。
同社は、心疾患から変形性関節症に至るまで、本剤が健康状態にどのような効果をもたらすのかを解明しようと奔走しています。
肥満、筋力低下や加齢などが原因で軟骨が擦り減って関節が変形し、関節の腫れや痛みを伴う病気。
オゼンピックとは
オゼンピックは糖尿病治療薬として開発されたGLP-1受容体作動薬です。
GLP-1はGLP-1受容体に結合することにより、インスリンの分泌を促進するホルモンです。
オゼンピックの有効成分「セマグルチド」はGLP-1受容体に結合することにより、インスリンの分泌を促して血糖値を下げる働きがあります。
慢性腎臓病とは
慢性腎臓病は、何らかの原因により腎機能の低下が3ヵ月以上持続する病気です。
日本では成人の8人に1人が該当すると言われています。
主に、以下のような原因によって引き起こされるとされています。
- 糖尿病
- 高血圧
- 生活習慣病
- 肥満
- 飲酒
- 喫煙
セマグルチドが糖尿病患者の腎障害リスクを24%低減させた
糖尿病治療薬「オゼンピック」と肥満症治療薬「ウゴービ」の成分である「セマグルチド」の長年に渡る主要な研究結果は2024年3月に発表されました。
この発表によると、本薬剤は糖尿病患者の腎障害のリスクを24%まで低減させたとのことです。
詳細な研究データについては、2024年3月22日にストックホルムで開かれた医学会で発表され、New England Journal of Medicineに掲載されました。
プラセボ(成分の入っていない偽の薬)投与群と比較して、セマグルチド投与群では、腎機能低下の速度を有意に遅らせることが証明されました。
また、主要な心疾患のリスクを18%まで低下させ、様々な死亡リスクを20%低下させることも認められました。
世界で最も権威のある医学雑誌の一つ。
その歴史は200年以上
本研究を率いた豪ニューサウスウェールズ州のシドニー大学学長Vlado Perkovic教授は以下のように語ります。
「これらの研究結果は、糖尿病に関わる合併症のリスクが高い個々人に対して、治療戦略を再構築するための大きな材料となる。」
「腎臓や心臓血管を保護するための新たな道を切り開いてくれた。」
「今回の安全性に関する心強い所見は、セマグルチドの潜在的な価値を裏付けるものである。」
糖尿病の3大合併症として
- 糖尿病性神経障害(手足のしびれ)
- 糖尿病性網膜症(視力の低下)
- 糖尿病性腎症(腎機能低下)
が知られています。
血糖が高い状態が続くと、手足の先、目や腎臓など細い血管が多く存在する器官で障害を起こすリスクがあります。
現在、オゼンピックは糖尿病の治療薬として承認されていますが、同社は今年アメリカとEUに対して、適応の拡大を申請する予定とのことです。
ノボノルディスク社は、セマグルチドに他の成分を結合させた次世代治療薬の開発に取り組んでいます。
ある成分に対し、少し手を加えるだけで、その成分の効果を強められる可能性があります。
例えば、セマグルチドはアミノ酸の集合体ですが、アミノ酸の数を増やしたり、種類を変えたりなど、少しの構造の変化によって、血糖降下作用を強めたり、別の作用を発揮させたり、ということが可能かもしれません。
次世代治療薬としてセマグルチドを活用できれば、糖尿病や肥満症の治療薬としての市場を超えて、心血管疾患などへの適応を拡大できると考えているようです。
この記事の参考サイト
慢性腎臓病(CKD)と腎不全について
Ozempic Slows Kidney Disease, Novo Nordisk Study Finds:WSJ