新しいRSVワクチン「アブリスボ」がFDAによって承認されたことにより、数万人の乳幼児の入院を減少させることが期待されています。
今回はRSVのワクチンについて詳しく解説します。
RSVの母子免疫ワクチンとして「アブリスボ」が承認された
2023年8月21日、FDAは、妊娠中の女性に対して、生後6ヵ月までの乳児をRSウィルス(以下、RSV)から守るために使用する初めてのワクチン「アブリスボ(Abrysvo)」を承認しました。
RSVはアメリカにおいて、乳児が入院する最たる原因であり、毎年5歳未満の子供300人以上を死に追いやることで知られています。
RSウィルス(Respiratory syncytial virus)は、日本語で「呼吸器合胞体ウィルス」と呼ばれる病原体です。
年齢を問わず感染し、呼吸器感染症をもたらします。
主な感染経路は、患者の咳やくしゃみなどからの飛沫感染と、ウィルスが付着したものを介した接触感染です。
RSVは軽い風邪のような症状だが、乳児や高齢者にとっては危険
RSVはほとんどの人にとっては軽い風邪のような症状を引き起こすだけですが、気管支炎や肺炎が重症化しやすい乳児や高齢者にとっては危険です。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、最大8万人の5歳未満の幼児や、16万人の高齢者が毎年RSV感染で入院しています。
「脆弱な人々にとって、季節性RSV感染症の影響は非常に大きいのです」とクイーンズ区にあるコーエン小児医療センターの小児集中治療部長James Schneider氏は述べています。
1960年代、開発中の予防注射がテスト中に何名かの子供たちに害をもたらしたこともあり、製薬会社は安全性が高いRSVの予防注射の開発に苦労してきました。
近年の技術の進歩により、特異的に設計された蛋白質が丁度良く免疫反応を引き起こすよう設計することが可能となったため、最近の予防注射の開発を促進しました。
RSVから子供たちを守るための選択肢が増えた
RSVに対する医薬品としての承認は、2023年7月に承認されたサノフィ社の薬剤「ベイフォータス(Beyfortus)」以来となります。
これらの医薬品は、両親に子供を守るための新たな手段を提供してくれます。
FDAは今年の初め、高齢者をRSVから守るため、ファイザー社とGSK社のRSVワクチン2種類を承認したばかりでしたが、子供たちは感染から自分自身で身を守らなければなりませんでした。
ベイフォータスとアブリスボが承認されたことで、新生児や乳幼児のRSVリスクを低減させることが期待されます。
ボストン小児病院の感染症専門医Kristin Moffitt氏は以下のように述べています。
「アメリカの幼児が入院する最たる原因に対して、これらは大きな変革をもたらすでしょう」
「新しい薬剤や予防注射が十分に行き渡れば、今後数年のうちに、RSV感染症例の数や入院事例を減らすことができるでしょう」
アブリスボの効果・メリット
新たに承認されたファイザー社のワクチン「アブリスボ」は、妊娠32週から36週の妊婦に接種され、母親の中で抗体を形成し、胎盤を経由して胎児に届くよう設計されています。
胎児が獲得した抗体は、胎児の免疫システムが独自に抗体を形成できるようになるまで、産後数ヵ月間残ります。
ファイザー社は2023年のRSVが拡大する季節までに、このワクチンが供給できるよう計画を立てています。
RSV症例は秋の終わり頃から冬にかけて、インフルエンザやCovid-19(新型コロナウィルス)と同じような時期に急増する傾向にあるため、これらに対処できるよう供給計画に尽力する方向とのことです。
アブリスボやベイフォータスは日本でも承認された
ファイザー社の「アブリスボ」は2024年1月18日に日本で承認されており、サノフィ社の「ベイフォータス」も2024年3月26日に承認されました。
これら2つの薬剤はRSVの脅威から乳幼児を守る有効な手段として世界中で広まっています。
この記事の参考サイト
アブリスボ®筋注用 [組換えRSウイルスワクチン(母子免疫)]
ベイフォータス[抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤]
RSウイルス感染症とは
FDA Approves RSV Vaccine to Pass Protection From Mother to Child:WSJ