減量や血糖値コントロールに効果的とされるGLP-1受容体作動薬ですが、従来は注射による投与が必要でした。
しかし、注射に対する恐怖心や心理的な抵抗を抱く患者も多く、治療への障壁となる場合が少なくありません。
そんな中、ノボ・ノルディスク社が新たに開発中のセマグルチド錠剤は、こうした課題を解決する画期的な治療法として注目されています。
本記事では、注射に抵抗を感じる理由や錠剤型減量薬の可能性、さらには競合製薬企業の取り組みまで、詳細に解説します。
錠剤型減量薬の登場。患者のニーズに応える挑戦
ノボ・ノルディスク社が新たに開発中の新薬は、注射剤に使われるセマグルチドを成分とした錠剤タイプの減量薬です。
従来の減量薬は注射で投与されていましたが、注射に対する恐怖心を持つ患者が多いことから、錠剤型製品への需要が高まっています。
ノボ・ノルディスク社は、これに応える形で錠剤の開発を進めています。
心理的・体質的に注射が苦手な人がいる
従来の減量薬にはオゼンピックのような注射タイプの薬剤がありましたが、効果は認めているものの、注射が怖くて利用できない人が居ました。
一般的に、注射が苦手とされる人は2つの種類にわけられます。
- 心理的要因で注射が怖い人
- 身体的要因で注射が怖い人
心理的要因で注射が怖い人
痛みには強い人でも、心理的な要因によって注射を苦手と感じる人が一定数存在します。
針恐怖症(トリパノフォビア)
注射針や注射行為そのものに対する恐怖症です。
この恐怖は、幼少期の経験や注射時の痛みによって強化される場合があります。
不安やストレス
病院や診察室の雰囲気自体がストレス源となり、注射に対する抵抗感を増幅させることがあります。
過去のトラウマ
痛みを伴う注射や不適切な医療行為の経験が、注射に対する拒否感を引き起こす原因となることがあります。
身体的要因で注射が怖い人
人よりも痛みに敏感な人、注射器を見たことによる身体の反応で注射が苦手な人もいます。
低痛閾値
通常の人は無視できる程度の痛みでも、敏感に感じ取ってしまう状態。
過去に強い痛みを感じた経験のある人や、神経系が敏感な人にみられます。
迷走神経反射
副交感系神経の一部である迷走神経が過剰に刺激されることで引き起こされる一時的な反応です。
心拍数や血圧が急激に低下し、めまいや失神を引き起こします。
注射に対し、極度に苦手意識を持っている人に多く見られます。
錠剤型セマグルチドの臨床試験結果
臨床試験では、68週間の服用で体重の最大17.4%減少が示されました。
この結果は、注射薬ウゴービの効果と同等であり、錠剤が有望な選択肢となる可能性を示しています。
ノボ・ノルディスク社は既に2型糖尿病治療薬として「リベルサス(セマグルチド)」を販売していますが、臨床試験で良い結果が得られたことから、今後は肥満治療薬としても承認される可能性があります。
セマグルチドの仕組み
セマグルチドは、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬の一つです、
ホルモンのGLP-1に似た働きをすることで、血糖値の調整や体重減少を促します。
錠剤化では消化管での分解が課題となりますが、製薬会社はこれを克服する技術を模索しています。
- 血糖値の調整
- 食欲の抑制
- 胃の排出速度を遅延
血糖値の調整
セマグルチドが膵臓のβ細胞を刺激し、インスリンの分泌を促進します。
一方で、膵臓のα細胞によるグルカゴン(血糖値を上昇させるホルモン)の分泌を抑制します。
これら2つの働きにより、食後の血糖値を効果的にコントロールします。
食欲の抑制
脳の視床下部にある中枢に作用し、食欲を調整します。
食事の摂取量を減らす事で、体重減少に役立ちます。
胃の排出速度を遅延
胃から小腸への食物の移動を遅延させることで、満腹感を持続させ、暴飲暴食を防ぎます。
競合する製薬企業の取り組み
ノボ・ノルディスク社だけでなく、競合各社も安全性と効果を追求しながら、注射薬に匹敵する錠剤薬の実現を目指しています。
ファイザー社:ダヌグリプロンなどの錠剤型GLP-1薬を開発中。
錠剤型薬の最大のメリットは、注射に対する心理的抵抗を軽減できる点です。
ただし、毎日服用の煩わしさや、注射薬に比べて効果の低下が課題とされています。
錠剤型減量薬は、注射が苦手な患者にとって選択肢を広げる可能性を秘めています。
今後、臨床試験の結果や規制当局の承認が進むにつれて、さらに利用が広がることが期待されます。
この記事の参考サイト
肥満に対するトリプルホルモン受容体作動薬レタトルチド ― 第 2 相試験
医療用医薬品 : リベルサス
No More Shots: Pill Versions of Ozempic-Like Drugs Are Coming:WSJ