サノフィ社が「開発中の多発性硬化症治療薬がその症状の進行を遅らせることが臨床試験で明らかになった」と発表しました。
同製薬会社は、今回の臨床結果がこの薬剤を上市する可能性について、規制当局と協議する道を切り開くだろうと述べています。
今回の記事では、サノフィ社が開発中の多発性硬化症候補薬「トレブルチニブ」について詳しく解説します。
サノフィ社の開発薬が多発性硬化症の症状進行を遅らせた
サノフィ社が開発中の多発性硬化症に対する薬剤「トレブルチニブ」が、後期臨床試験において、症状の進行を遅らせることが明らかとなりました。
多発性硬化症とは
多発性硬化症は自己免疫疾患の一種です。
日本では指定難病に認定されています。
本来、免疫細胞は「異物を認識した時に、排除する働きのある細胞」ですが、何らかの原因で正常な細胞や組織を攻撃してしまうことがあります。
このような症状を自己免疫疾患と言います。
多発性硬化症は、脳や脊髄などの中枢神経系や、視神経などが免疫細胞に攻撃されることで引き起こされる疾患とされています。
多発性硬化症の症状として、以下のような症状が現れる事があります。
- 複視(ものが2重に見える)
- 顔の感覚が麻痺する
- 認知機能の低下
- 運動機能の低下
- 手足のしびれ
- 排尿・排便障害
これらの症状は一例であり、どこに病変ができるかによって症状の現れ方に大きな差異があります。
トレブルチニブはどんな成分なのか
トレブルチニブはサノフィ社が開発中の多発性硬化症治療の候補薬です。
経口タイプのブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬に分類されています。
本来、体内に侵入してきた異物に対し、抗体を作って対処するB細胞(白血球の一種)ですが、何らかの原因で自身の体を攻撃する「自己免疫性B細胞」が発生します。
この自己免疫性B細胞の生存に関わっているのがBTKであり、トレブルチニブがBTKの働きを阻害することにより、選択的に「悪いB細胞」を除去することができるとされています。
トレブルチニブの臨床試験結果
第3相臨床試験では、トレブルチニブによって「非再発性二次性進行型多発性硬化症患者に対し、障害の進行を遅らせた」という結果が得られました。
再発(新たな症状や症状の悪化)が確認されなくなるものの、時間が経つにつれて、身体の機能障害が増え続ける疾患
これまで、このタイプの多発性硬化症に対して承認された治療法が存在しないため、今回の臨床試験ではプラセボと比較検討が行われました。
再発寛解型多発性硬化症患者に対するトレブルチニブの効果を検証する他の後期臨床試験では、発作率の低下について、有意な改善を示すことができず、試験の主目標は達成されませんでした。
症状が急に出たり(再発)、治まったり(寛解)を繰り返す疾患
しかし、神経障害が悪化し始めるまでの時間を遅らせることが分かりました。
これは、非再発性二次進行性多発性硬化症の臨床試験で確認された、障害の進行を遅らせる、という結果を裏付けるものです。
サノフィ社は、「従来の多発性硬化症治療薬オーバジオと比較すると、再発寛解型多発性硬化症に対するトレブルチニブの臨床試験結果は評価に値する」と述べています。
この記事の参考サイト
多発性硬化症(MS)の経過
多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)
Sanofi Multiple Sclerosis Drug Delays Disability Progression in Trial – WSJ:WSJ